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最高裁判所第一小法廷 平成6年(あ)975号 決定

本店所在地

東京都新宿区西新宿七丁目三番五号 ピアット・ワンビル

瀬戸内興産株式会社

右代表者代表取締役

植村文雄

本籍

東京都日野市大字宮三七六番地

住居

同武蔵野市中町二丁目二二番三号

会社役員

植村文雄

昭和二〇年二月一四日生

右の者らに対する各法人税法違反被告事件について、平成六年九月二六日東京高等裁判所が言い渡した判決に対し、各被告人から上告の申立てがあったので、当裁判所は、次のとおり決定する。

主文

本件各上告を棄却する。

当審における訴訟費用は被告人両名の連帯負担とする。

理由

弁護人横地正義及び同木幡尊の各上告趣意は、いずれも量刑不当の主張であって、刑訴法四〇五条の上告理由に当たらない。

よって、同法四一四条、三八六条一項三号、一八一条一項本文、一八二条により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 三好達 裁判官 大堀誠一 裁判官 小野幹雄 裁判官 高橋久子 裁判官 遠藤光男)

平成六年(あ)第九七五号、法人税違反被告事件

被告 瀬戸内興産株式会社

被告 植村文雄

右弁護人弁護士 横地正義

平成七年二月一四日

最高裁判所第一小法廷 御中

上告趣意書

右被告事件につき、被告人らの上告趣意書を提出する。

量刑不当

一 本件記録を精査検討するとき、本件租税ほ脱事件は、原判決指摘のとおり、悪質であることは争う余地のないところではあるものの、本件は、二事業年度にわたった、合計三億一四三七万九二〇〇円のほ脱であって、二〇億円、三〇億円といった高額なほ脱ではない。そして悪質だ、悪質だといっても、裁判所で審理されるような租税ほ脱事件は、多かれ少なかれ悪質なものばかりであって、悪質でないものなど殆どないといってもよい程だと考えたい。これを要するに、悪質とはいってみても、程度の差に過ぎないものとみるのが至当である。

二 被告人らは、全面的に控訴事実を認めているばかりでなく、未納本税の納税に鋭意努力を続けて来ている。但し、目下の不動産業界の大不況に遭遇して、思うに任せられないだけのことである。

被告人植村は、現在反省しており、再犯のおそれはない。

被告人植村は、現在店舗を構え、従業員も七名雇って、不動産業を営んで、少しでも未納税金を納めるべく努力中である。

ここで、被告人植村を刑務所に送るならば、被告人の店舗は、縮小又は閉鎖せざるを得ないことなり、営業収益も当然減少し、ひいては未納本税の納付も罰金の納付も不可能という結果を招来するであろうことは容易に想像される。この事態を回避し、未納税金と罰金の納付を少しでもより多く可能ならしめる道は唯一つ、被告人植村に刑の執行猶予の恩典を当え、もって納付に精を出させることが最善の策ではなかろうか。

三 法人税法違反被告事件における第一審の有罪統計を最高裁判所司法統計年報によって調べてみると、別紙添付の表のとおりである。

この統計表の数字から、大胆な推測を下すとするならば、本件の場合は、九割の確率で執行猶予になるという部類のほ脱事件であるものと推測される。

被告人植村を実刑にするのは、従業員の職を失わせることにもなって、苛酷にすぎ、未納税金の納税、罰金の納付を不可能にしてしまうという国家財政上の損失をも招来することになる。

最高裁におかれては、実務における量刑相場をも参酌の上、よろしく被告人らに、最も有利な御判決を賜わるようお願い申し上げます。

最高裁判所 司法統計年報

通常第一審事件の有罪(懲役・禁固)人員―罪名 法 税法違反

平成3年

〈省略〉

平成4年

〈省略〉

平成5年

〈省略〉

平成六年(あ)第九七五号

上告理由書

法人税法違反被告事件

被告人 瀬戸内興産株式会社

外一名

頭書被告事件につき、弁護人の上告理由書を左記の通り提出致します。

平成七年三月一四日

右弁護人 木幡尊

最高裁判所第一小法廷 御中

第一審判決の量刑を支持した原審判決は、量定が甚だしく不当であり、破棄しなければ著しく正義に反し、破棄さるべきである。その理由は次の通りである。

一、本件被告人植村の本弁護人に対する説明によると、本件は第一審裁判所が被告人等の納税を待ってくれていたが、なかなか実現に至らず、已を得ず実刑判決に至った由である。

二、原審に於いても納税等が被告人等の思惑とは異なり、バブル崩壊により納税資金の捻出が出来ず、平成六年一二月頃迄は或る程度の支払可能な状態にあったが、原審の都合もあり御判決に至った。

三、被告人等が税法違反を犯すに至った経緯・被告人植村の生い立ち・性格・会社経営の現状等は控訴趣意書に於いて主張し、被告人植村が第一審法廷・原審に於いて述べた通りであります。

四、被告人植村は高金利の支払経費等五、〇〇〇万円程あったが、金融業者の協力を得られず、関係証拠の蒐集が困難であった。然し、ようやく協力が得られ、関係証拠も取り揃え可能となり、更に税金の納付も若干日を以って可能とのことでもあります。

この点は原審で主張しましたが、実際上証拠書類等蒐集出来ず、原審判決理由に記載されたような結果になっておりますが、上告審に於いて事実取調べが御許し頂ければ証拠等提出の予定であります(何分急な選任で、後日上告理由補充書提出の際に写し等添付致したいと思います)。

五、元来従前の判決例から見て、本件規模程度の脱税事件に於いては大部分が執行猶予付判決になっております。原審判決情状につき、脱税事件の規模よりは方法・脱税枠を以て悪質と断じておりますが、右は脱税規模との相関関係に於いて論ぜられるべきものであるは勿論・本件は方法に於いて特に他の一般的脱税事件より悪質と云う程のこともないように思われます。

六、被告人等は本件を反省し、何とか納税の実をあげるべく努力していることは人後に落ちないものでありますが、何分バブル崩壊後の不動産業界であり、従業員の給料支払いもままならぬ状態が続き、その中であれこれ努力しているのが実情であって、現況が特別な経済状況であることも御勘案頂きたいと思います。

又、実刑判決は結局的に、被告人の家族はもとより、従業員の家族を含めた多人数を塗炭の苦しみの中に放り出すことにもなり、勿論税収の確保は完全に困難になるものであります。もとより本弁護人も単に結果論的な主張をしようと思っている訳ではありません。只今本件全体、被告人の個人的事情努力等々を考慮する時、実刑判決は酷に失するものと思料するものであります。

以上諸般の情状御斟酌頂き、原審判決破棄の上、執行猶予付の御判決あらんことを御願い申し上げます。

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